上弦の壱 黒死牟(こくしぼう)

 

黒死牟とは、漫画『鬼滅の刃』の登場人物である。

 

概要

吾峠呼世晴による漫画『鬼滅の刃』の登場人物。
鬼舞辻無惨配下の精鋭、十二鬼月
その頂点たる“上弦の壱”───真に最強の鬼である。
席位に従い右目に「壱」、左目に「上弦」の文字が刻まれている。
数百年を経ても尚不敗を誇る、最強の剣士。
長い黒髪を後ろで縛り、六つ眼を持った異貌の鬼。
さらに額や首元から?にかけて炎のような痣がある。

 

遊郭編にて初登場。
"上弦の陸"である妓夫太郎・堕姫兄妹の敗死により上弦の百十三年無敗の記録が破られ、上弦全員が無惨により無限城に召集された際にその姿を現す。
十二鬼月の序列を厳格に重んじており、"上弦の参"猗窩座が自分を煽る"上弦の弍"童磨へ一撃を入れた際にはその左腕を斬り飛ばして、彼を諫めた。
次に登場したのは無限城での決戦編にて新たに"上弦の陸"の座に就いた獪岳が自身が鬼になった際の回想にて、自らと対峙した際に土下座をして命乞いをする彼に無惨の血液を与えて彼を鬼へと変えている。

 

作中における事実上の準ラスボスとも言えるキャラクター。

 

人物

常に冷静沈着かつ理知的な性格で無惨への忠誠心も厚く、配下をほとんど信用しないはずの無惨からもある種の“ビジネスパートナー”と認識されるほど信頼されている。

 

言葉の節々に「…」を入れる独特の話し方をする。余計な感情に振り回されることはなく、時に仲間内で諍いを起こす上弦の中においてはそれを武力で持って収める組織のまとめ役としても強い存在感を示している。

 

その重くも威圧感のある雰囲気は時透無一郎を「重厚な様 威厳すらある」「怖気が止まらない」と動揺させ、獪岳は「あの 体中の細胞が 絶叫して泣き出すような恐怖」と回想しており、劇中で対峙した多くの鬼殺隊士に甚大な恐怖を与えている。

 

この規律や序列を重んじる理性は黒死牟が戦国時代に武家の長男として生まれた事に端を発している──それは同時に室町、安土桃山、江戸、そして明治を経て大正に至る四百年以上“最強”の座に君臨していた事を意味する。

 

戦国時代を生きた武人ゆえ、敵である鬼殺隊の柱に対してもその実力や研鑽を素直に認めて賞賛する姿勢を示し、いつか己を殺す=超えると公言している猗窩座へはその成長に期待をするような態度も見せていた。

 

戦闘においてもたちが繰り出す攻撃を冷静に分析し、血鬼術や再生能力にかまけた油断もせずに積み重ねた剣術や体術を持って、放たれた技に対応する剣士としての形質が強く表れている。

 

本質

表面こそ人食い鬼らしからぬ程に冷静沈着な黒死牟だが、その内面は人間の頃から複雑な心境を形成している。
人間の頃には「最強の侍」という夢を持っていたが、あまりにも身近に天賦の素質を有する弟の存在があり、幼少期からその一挙手一投足に凄まじい嫌悪感を抱く程の“嫉妬心”。
家族や仲間など人との縁も家督などの立場も難無く切り捨てられる程の剣の道への執着心。
技量の開きから自分達の技や呼吸法を次世代に継承できない状況を焦り悲観しながらも、これを「自分たちの代だけが特別なのだ」と思い上がる“慢心”。
これらの感情は全て人間時代から持っていたものである。柱たちへの賞賛は紛れもない本心なれど、それは「その領域(技)に至るまでの苦難への二心無き賞賛」ではなく、「共感はすれどその技が我が身に届く道理なし」という最強たるが所以の余裕────否、“傲慢”に満ち溢れていた。
鬼、引いては"上弦の壱"たる自分こそが最強であると信じ、真に追い詰められた時には敵への賞賛など欠片も無く、胸中に渦巻くのは弟に抱いていたものと同質の自分を超えようとする存在に対する嫌悪感のみである。
この傲慢さや身勝手さは無惨に通じるものがあり、この2人が手を組んだのは必然だったと言えよう。

 

技・能力

その実力は対峙した無一郎が「他の上弦とは比べものにならない」とまで評するほど正に別格である。
使う技のほとんどが純粋な物理攻撃であり、これまでの幾つかの鬼のような毒をはじめとした搦手は一切持たない極めて武闘派のスタイルとなっている。

 

全集中 月の呼吸

最強の鬼であると同時に最強の剣士である黒死牟が辿り着いた、“血鬼術”と“全集中の呼吸”という対極を合一して至った太極。
詳しくは当該項目を参照。

 

武器精製

自身の肉体から刀を作り出す。
この能力こそは一般の鬼が持つ肉体操作の能力の延長線上にあるものといえるが、これにより武器の破壊による剣士として戦闘不能に陥る状態を実質的に封じている。
以下、黒死牟が作中で精製した武器。

 

通常は日本刀及びそれを収めた鞘の形をしている。
その刀身には、血走った血管の様な模様と共に瞳が無数に付いている。
日輪刀の材料になった鉄には弱いが、幾らでも再生できるという特徴を持ち、更には刀身から三日月形の刃を形成する能力を持つ。

 

強さを認めた剣士の前では三本の枝分かれした刃を持つ大剣となる。
この形状を見せてからが真の地獄である。

 

広範囲攻撃

斬撃を衝撃波として飛ばすほか、剣の軌跡に付随する自立した三日月状の細かな斬撃を発生させる。
人間であった頃から比類なき剣士であった彼が、この二つの力を自身の剣術と融合させた結果、上記の戦技へと至らせた。

 

透き通る世界

相手の状態を見通すことで、相手の初動を潰し一方的に攻め立てる先の先を現実のものとする。
痣を発現させた上で更に身体能力を高めないと得られない視界であり、限られた者しか使用できない(作中で黒死牟の他に発現させたのは生まれつきその視界を持つ継国縁壱の他、竈門炭十郎、竈門炭治郎、悲鳴嶼行冥、時透無一郎、伊黒小芭内ら数名のみ)。

 

『無限城決戦編』にて

対柱戦

猗窩座が倒された直後、鳴女によって空間移動させられた時透無一郎と邂逅。
彼が"上弦の伍"玉壺を一人で仕留めた際の痣を発現させた全力の状態で挑んだにも関わらず、瞬く間に左腕を切り落とし、無一郎を自分の子孫だと見抜いた上で今度は彼を鬼にしようと城の柱に刀ごと磔にして拘束してしまった。

 

同じく黒死牟のいる空間に転送され、不意を突こうと隠れていた不死川玄弥による奇襲の銃撃も高速移動で躱しながら左腕を切り落とし、返す刀で右腕を、そして一瞥する間に胴を両断し戦闘不能に追い込んだ。
そして「貴様のような鬼擬き…生かしておく理由は無い…」と首を切断しようとした瞬間、その場に駆けつけた玄弥の兄・実弥によりそれを阻止される。

 

その実弥との戦いでもまるで彼を寄せ付けず、あと一歩まで追い詰めるが、今度は悲鳴嶼行冥が現れて彼と対峙、悲鳴嶼に対して呼吸の痣の実態について話すも彼からは既に承知及び覚悟の上と一笑に付され、悲鳴嶼と実弥との戦いに突入。
柱二人を相手にしてもむしろ逆に圧し込むほどの戦闘能力を見せつけるが、二人も黒死牟の攻撃を即座に読んで対抗し、一進一退の激戦を繰り広げる。

 

当初こそ過去の記憶と照らし合わせて戦いを楽しむ余裕を見せていたものの、深手を負いながらも気力で喰らいつく実弥、戦いの中で“透き通る世界”を開眼するほどの成長を見せた悲鳴嶼の前に次第にその差を詰められていき、そして無力化したと思っていた無一郎と玄弥の決死の行動によって動きを止められたことでその均衡は崩壊する。

 

予想外の窮地の中で想起したのは今から数百年前、人を捨てて鬼になってから60年近く経ったある夜に果たした、とうの昔に痣の後遺症で死んだと思っていた弟とのまさかの再会。
齢80以上にも関わらず全盛期と変わらぬ強さで追い詰められながらも、弟は自身を仕留める前に寿命で事切れており、結果的に最後まで実力で勝つことは出来なかった過去の記憶。

 

憤怒で猛り狂う意識の果てに、全身から刃と斬撃を突き出すというこれまでの剣士としての矜持を捨てるかのような反撃で玄弥、無一郎の身体を切り裂くも、それをも躱した悲鳴嶼達によって遂にその頚を刎ね落とされる。

 

最期

それでもなお凄まじい執念で頚を再生させ、さらに身体も大きな変化を見せる。
人間達の手によって追い詰められた黒死牟が、どこまでも独り越えに超えて成った理想。
誰よりも黒死牟自身が願い、遂に顕現させた誰をも寄せ付けない真の最強。
全身に纏った黒刃から無数の月輪を全周囲に放ち、如何なる存在をも歯牙にかけずして蹂躙する……その光景を、彼は信じて疑わなかった。

 

しかし、実弥の刀に写ったのは──…

 

何だこの醜い姿は……

 

異形の「侍」ではなく、醜い「化け物」の姿と成り果てた自分の姿。

 

侍の姿か? これが…
これが本当に俺の望みだったのか?

 

頚を落とされ 体を刻まれ 潰され 負けを認めぬ醜さ
生き恥

 

「兄上の夢はこの国で一番強い侍になることですか?」
「俺も兄上のようになりたいです」
「俺は この国で二番目に強い侍になります」

 

止めを刺さんと攻撃の手を緩めぬ悲鳴嶼と実弥の猛攻で身体を粉砕されて行く中で、

 

こんなことの為に私は何百年も生きてきたのか?
負けたくなかったのか? 醜い化け物になっても
強くなりたかったのか? 人を喰らっても
死にたくなかったのか? こんな惨めな化け物に成り下がってまで

 

違う私は 私はただ
縁壱 お前になりたかったのだ

 

不死身の怪物などではなく、日輪になりたかったことに気づいた黒死牟は塵と還った。
残った僅かな衣服の中には、かつて弟に渡した音の鳴らない笛だけが転がっていた。
その魂は無明の暗闇の中、燃え盛る地獄の炎にその身を焼かれながら、虚しく宙を掻き続けていた。

 

 

 


TVアニメ「鬼滅の刃」視聴はFODで!!
トップへ戻る